傷
わかば
暗い部屋の中に、彼と私の息遣いが響く。たまに混じるリップ音と、衣擦れの音。
彼の掌が、私の体を這う。服の上からだったそれは、流れるように布の下をくぐった。肌と肌が触れたところが、ひんやりとして気持ちいい。その気持ちよさに浸る間もなく、彼の体温が溶ける。それもまた気持ちがよかった。
つつ、と上へ移動した指が、触れて、止まる。
一瞬息を止めた彼は、愛撫をやめてゆっくりと私から布を奪い取った。
明かりのない部屋で、それでも、目が慣れるほど暗闇にいた私にははっきりと見えた。きっと彼にも見えている。
彼の指が触れたのは、生白い肌に走る傷痕だった。左胸からへその上を通って腰の右側へひとつ、それ沿うように、左わき腹からへその下へひとつ。
見られてしまった、と思った。そういう行為をする以上、隠し通せるものでもないし、そもそも隠しているつもりもなかった。服の下にあるから見えていないだけ。見せる機会がなかっただけ。ただ、彼を見ていると、見られてしまった、と思うのが自然な気がした。