消えぬ鼓動に名をつけて

公光♀ラハ光♀中心、アウラチャンアンソロジー企画「記憶の欠片」告知サイト。

アイスを作って食べないと出られない部屋

せつな

入って来た扉は固く閉ざされ、その上にでかでかと「アイスを作って食べないと出られない部屋」と書かれている。

「こういうのはだいたいアラグのせいだって聞いてる」
「ああ、うん。まあ、そう……だな……」

アラグのせい、と言われると少し胸がチクッとする。あの時代の生まれという訳ではないが、何かと縁もゆかりもありすぎるので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。とはいえ、よく耳にするあれとあれそれしないと出られない部屋ではなかったことには素直に安堵した。本当に。嘘じゃない。
ふと、彼女の視線がオレの背へ向けられていることに気付いた。視線の先にあるのは杖だ。ハッとして、杖を掴む。

「だ、ダメだ! 氷魔法はダメ!」

氷魔法は一見すればただの氷だが、実際には氷属性のエーテルの塊である。〝アイス〟と言うのであれば、ある意味において氷もそのひとつだ。だが、そんなものを摂取すれば、間違いなく体調に異変をきたす。
それを丁寧に説明すると、若干しゅん、と俯きながらも引き下がってくれた。気持ちは分かる。食べたら美味しそうだな、と誰もが一度は考えることだ。オレも子供のころにアイスクリスタルを口にして、ひどい目にあったものだ。
「魔法は冷やす工程では使えると思うけど、そもそも何を作るかだよな……」
部屋の中にはご丁寧に調理台や、料理器具が一式揃っている。問題は、食材が何も用意されていないことだ。蛇口から水は出るので、これを凍らせて食べれば解決する気がしないでもない。といはえ、せっかくの?機会だ。それでは味気ない。

「そういえば、どういうアイスが好きなんだ?」

彼女の好物がアイスであることは、もちろん知っている。しかし、その種類までは気にかけたことはなかった。

「冷たいやつ」
「そ、そうか……えぇと、聞き方が悪かったな……」

アイスと一口に言っても、多種多様だ。牛乳や生クリームを入れた王道のアイスクリームから、氷を細かく砕いてシロップをかけたかき氷も氷菓子のひとつだ。いくつか種類を提示して改めて尋ねると、彼女はしばし考えた上で「氷菓」と答えた。
たしかに、彼女がよく口にしているのはその類のものだ。