消えぬ鼓動に名をつけて

公光♀ラハ光♀中心、アウラチャンアンソロジー企画「記憶の欠片」告知サイト。

アイスに嫉妬する日が来るとはな

流離のがっき〜

 豊穣海南東に位置し熱帯で知られるサベネア島。
 オレと英雄はこの島の玄関口イェドリマンに来ていた。
 雲一つない空から降り注ぐ太陽の熱気が容赦ない。

「……アイス」
 振り向くとじっと一点を睨む彼女の姿が目に入った。
 彼女の視線を追うと、出店でアイスを売っていた。
 彼女は無類のアイス好きだ。
 躊躇せずに店へと向かいだした彼女を追い、オレ自身もこの暑さを凌ぎたい、と二人分購入した。
 もちろん、ぼったくられぬようにきっちりと交渉して。
 町外れの木陰に移動するや否や、彼女は待ち切れないとばかりにアイスにかぶりつく。
 鋭い歯を立て、無心に食べ続ける彼女の表情は無に近いようでそうでは無い。
 頬が微かに朱に染まり、若干緩んでいる。
 彼女の可愛らしい一面だ、とつい見惚れていた。

「……食べないの?」

 食べ終えた彼女の視線はオレのアイスに向かっていた。 顔に『食べたい』と書いてある……気がする。