睡眠はちゃんと取りましょう
バルデシオン分館の中で資料をまとめるグ・ラハ・ティアの目はどこか虚ろで、それでも仕事だけはこなそうという心意気だけがその瞳に宿っていた。徹夜でやる必要はなかったのだが、作業が順調に進むとついもう少しもう少しと手を止めることを先延ばしにしてしまい、結果寝ることも忘れて没頭していたのだ。昼や夜にクルルから寝なさいと言われていたがグ・ラハは気のない返事をするばかり。口に無理矢理サンドイッチを詰められていなければ飲食すらも忘れていただろう。
そこでクルルは思い出した、彼の唯一の弱点を。彼女はもっと早くにこうすればよかったとリンクパールに手を当てた。
「グ・ラハ、開けるよ?」
がちゃとドアが開いた音をミコッテの敏感な耳が捉えたが、彼自身は気が付いていないようで視線は書類に向かったままだ。部屋に入ってきた人物はその背中に近付くと耳元でもう一度彼の名前を──ラハ、と呼んだ。
「……? あんた、どうして……」
半ば焦点の合っていない瞳が彼女を捉える。そこには、いないはずの英雄の姿があり、ラハは暫し瞬きを繰り返した。
こっちに来ていたんだな、言ってくれれば茶の一つぐらい用意したのにそんな言葉を口にするはずだったし、したはずだった。しかしグ・ラハ・ティアは徹夜続きである。ところで人間の三大欲求は食欲・睡眠欲そしてもう一つが存在するが、この時彼は二つを疎かにし、正常な判断力を失っていた。だから、というべきか。濃い隈を残し充血した目をかっぴらいて発した言葉はとんでもないものだった。
「あんたの長い舌でオレのちんこを扱いてくれ!」
§
「っ、ふ……はぁ……え、っろ……」
目の前で繰り広げられる光景に、ラハはそう感想を漏らした。普段あまり大口を開けて喋らない英雄の口から極限まで引き出された舌は、とぐろを巻くように彼の象徴に巻き付きながら上下に扱いている。それでも余る舌先は陰嚢にまで伸び、袋の皺を伸ばす様にぐにぐにと押し広げていた。
とんでもないお願いを口走ったが幸い理性は手放していなかったようで、すぐに後悔して訂正しようとしたのだが、二つ返事で承諾されてしまい、この現状を甘んじて受けるしかなかったのだ。