赤い、紅い、貴方を吸いたい
例えば、あんたの顔を見かけた時。その視線が、オレを辿るものであった時。
例えば、あんたに名前を呼ばれた時。明確に、あんたの中にオレという存在が残っているのだと確かめられた瞬間。
オレはどうしようもなく堪らなくなる。それが極上の褒美であるかの如く、血が沸き立って仕方がない。
あんたが生きているだけで喜びなのだと何度話しただろう。それじゃ飽き足らなくなってしまったのだと悔やんだ時のあんたの顔といったら。これからも一緒に生きて行くんだよなって手を取って、しっかりとあんたの手の小ささを認識したときの胸の弾みは、忘れることなんかできない。
アウラ・ゼラの冒険者。暁の英雄。その人が今や自分の恋人となってしまった。その事自体も信じられないほどなのに、身体を繋いだ日のことすらもう思い出せないなんて贅沢だ。
片手で数えられるほどだった情交は今や途方もないほどに増え、物理的に顔を合わすことのできない日だけが隔たりとなっている。英雄という彼女の小さな手をとって触れ合うことを許されてからこれまで、大抵のことはし尽くしたけれど、それでも月が空へと上れば彼女に触れたくなり、どうしたって口に吸いつきたくなるのも確かだった。
あんたの生を望んだくせに、あんたが苦しみ喘いでいる姿を見たいと思う欲とは一体どこから湧き出てくるんだろう? 愛する人を屈服させたいという醜い男の性なのか、これでもサンシーカーの血が流れてる所以なのか。
一人用のベッドに寝そべって、抱き合って、耳と角を擦り合わせて。その鋭い刃先のような角の合間を潜って小さな唇を舐める。酸素を奪い合って、ざらついた粘膜を絡ませて唾液を吸う。ああ、こんなに口を塞いでいたら窒息してしまう。眉間に皺を寄せる姿だって堪らなくて、何をしてるんだろうなって笑う、そんな戯れを繰り返す。
「なぁ、あんた」
今日はどうしようか、と、冒険の続きのように彼女に問う。オレの英雄。憧れの、大切な人。どうか今日も応えてほしい。
頼りないカミーズから溢れんばかりのふたつの膨らみに誘われても、今日はぐっと堪えた。彼女の青白い肌に光る黒い鱗だって大きな傷跡だって何度口づけて触れてみたか分からない。硬くても柔らかくても、とくりとくりと脈打つ彼女の息遣いを感じられて、腹の底から歓びを得ているのだと実感して、本能が焦れったく蠢く。