番う夜闇に抱きしめたい

公光♀ラハ光♀中心、アウラチャンアンソロジー企画「記憶の欠片」告知サイト。

喰われ溺れて睦む夜

菜無子

 前略、グ・ラハは冒険者に押し倒されていた。理由はといえば決して大きな声では言えないのだが、前回共寝をした時に彼女の数少ない弱点たる角をたっぷりと愛したお返しをしてくれるらしい……というのは建前だ。あの夜に彼女の負けん気に火をつけてしまったのだろう。つまるところ英雄殿からの逆襲だ。
 腹は括ってあるし、何より逃げては何されるかわかったものでは無い。ただでさえ今日やると告げられた事は初めてばかりでもう心臓は跳ねに跳ねているというのに、これ以上するとなればもう心拍数が限界を越えて死ぬ気がする。

「……考え事?」

 そう問われると同時、くいと顎を掬われ彼女の方を向かされる。少し不機嫌そうな表情は気に食わないと言いたげで、耳をくにくにと弄られて少しくすぐったい。あんたの事考えてた、と返せば顎に添えられた手がむにゅりと頬を押した。割と力が強くて痛い。

「随分余裕そうだから。何考えてるのかと」
「余裕なんてある訳ないだろ……心臓破裂しそうなんだぞ」
「の割には平然として見えるけど」

 百年ほど顔に出さない練習はしていたからな、と口に出す前に両の手がするすると滑り落ち、角が胸元にあてられる。ただでさえ心臓が痛い程に脈打っているのに、触れられるだけで更に鼓動が早くなるのだから我ながら単純だ。

「本当だ。確かに破裂しそう」

  艶やかな薄花色を離しながら、楽しそうに彼女は微笑む。平時は滅多に見せない笑みの不意打ちにまた心臓が跳ねて、そろそろ本当に心停止しそうな気がする。これからされることにすら心臓がもつか分からないのに、今からこんなになっていては本当に死んでしまいそうだ。
  一度大きく息を吸い込んで、深呼吸。腹の中の諸々も同時に吐き出して、上半身を起こした。少々驚いた様子の冒険者を抱き寄せて、彼女の尻尾に自身の尾を絡ませる。すりすりと鱗に覆われた尾にじゃれるように絡みつかせながら、角に唇を押し付けて囁いた。

「破裂しそうだからさ。……早く、しよう?」