英雄を魂に刻印し、
石の家にある自身とグ・ラハ・ティアと共同の居室、そこに私は独りで座っていた。私の部屋だと言うことは正直覚えていないが、部屋の前に私の仮の名前が書いてあったからきっとそうなのだろう。柔らかな陽光が窓から差し込んできており、妖霧に覆われることの多いこの部屋はいつもよりほんの少しだけ暖かだった。
ガリッ。
口の中でひやりとした硬い感触が広がる。舌の温度ですぐ溶けてしまう程小さな欠片から。まだまだ噛み砕けそうな大きい欠片まで、口いっぱいに飛び散る。
冷たい物は好きだ。何故それが好きかという理由を問われれば、またいつもの様に分からない。としか答えられないが。理由がどうあれ、今後も好きである事に変わりは無いだろうから、そんな事はどうでも良いと思う。
身体を冷やすと何故か心が落ち着く気がする。もやもやしていたものが。ぞわぞわしていたものが。抜け落ちていくような感覚がある。それがきっと心地良い。ただ落ち着き過ぎる気もするが……。今までの生活に大した影響は出ていない。ならばそれに関して心配する必要など何処にも無いだろう。そう、だからなんだって話の一つ。
そんな事を考えていると扉をがちゃりと開く音がした。目を向けると私と同じ瞳の色をしたミコッテ族の男性が入ってきた。
「あ、グ・ラハ。おかえり」
口の中にあった欠片を噛み砕いてから飲み込む。冷えた吐息と共に、言葉を混ぜて発する。
「あ、ああ。ただいま。相変わらず氷、好きなんだな」
尖った歯列が勢いよく氷を噛み砕いて飲み込む姿は、いつ見ても驚く。少し気後れしながら彼女の言葉に応える。
オレの言葉にこくりと頷きながら、彼女はコップの中に入った氷をまた一つ取り出す。下にある氷から取ったせいだろう。彼女が触れたことで澄んだ音が部屋に響きながら、光に反射して煌めく。
取り出した氷をまた鋭い歯を覗かせながら咥える姿が見える。
何故か平穏な空間のはずが、急に色めいて見えた。生唾をごくりと飲み込みながら、邪な考えが顔を出す。